
仮想通貨(暗号通貨*1)の「ホワイトペーパー」という言葉を目にしたことはありませんか?
ホワイトペーパーとは白書(公開文書)のこと。
仮想通貨においては、仮想通貨を開発・発行する際にどのような目的・技術なのかを解説した書類のことです。
ホワイトペーパーを読むことによって、その仮想通貨がどのような通貨なのかを知ることができ、投資をするか判断する資料とすることができます。
こちらの記事ではホワイトペーパーの読み方、どの点に注目して読むべきかを解説します。
*1)2018年12月の仮想通貨交換業等研究会による報告書において、呼び名を「暗号資産」とする内容が取りまとめられました(金融庁|「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第11回)議事次第)。
1. 仮想通貨のホワイトペーパーとは事業計画書のようなもの
この章では、ホワイトペーパーとはどのようなものなのか、概要について解説します。
1-1. 自分の取引している仮想通貨のホワイトペーパーは読んでおこう
「ホワイトペーパー」という言葉はマーケティングなどでも使われるため、混乱する方も多いようです。
仮想通貨のホワイトペーパーは事業計画書に近い
仮想通貨でのホワイトペーパーとは、通貨を開発する上での目的・技術などについて解説されたもの。企業における事業計画書のようなものだとイメージするのがわかりやすいでしょう。
例えば株式に投資する場合、各銘柄の値動きだけで投資判断をする投資家もいるかもしれませんが、やはりIR資料・アニュアルレポート・四季報などに目を通す方が多いでしょう。
投資先の会社の事業計画・営業状況などをチェックすることは、株式投資の基本中の基本です。
よって仮想通貨投資においても、各コインが開発された背景や目的などを知っておくことは、投資判断に役立ちます。
ICOの場合は必ず読まないとリスクが高い
特に、新規で立ち上げられたばかりの仮想通貨のICOの場合は、ホワイトペーパーをよく読んでおかないとリスクが高く、必須事項といえます。
BTC(ビットコイン)・ETH(イーサリアム)といったメジャーなコインに投資をしている方も、改めてホワイトペーパーを読むといろいろな発見があるかもしれません。自分が投資している通貨のことをより細かく把握できます。
1-2. ホワイトペーパーはどこで見られるの?
ホワイトペーパーの場所については、だいたい各通貨の公式サイトにあることが多いです。
ただし、一部のコインでは、ホワイトペーパーを作っていません。
なおBTCのホワイトペーパーは、9ページの論文となっています。のちほど3-1で概要を解説しますので、ぜひご覧ください。
2. ホワイトペーパーは具体性と実効性に注目
この章では、ホワイトペーパーを読むのに便利なツール、記述されている具体的な内容、要注意ポイントについて解説します。
2-1. 翻訳ツールを使えば簡単に読める
仮想通貨のホワイトペーパーは、英語で書かれていることが多いため、ハードルが高く感じてしまう方も多いです。
しかし現在は外国語の翻訳ツールも進化しているため、ツールを使えば英語が苦手な方でも読むことが可能です。おすすめのツールを2つご紹介します。
Google翻訳
無料で使える翻訳ソフトとして知名度があり、使ったことのある方もいるのではないでしょうか。
しかしGoogle翻訳はテキストに入力する形式で、PDF文書は無理なのでは?と思うかもしれませんね。
実はGoogle翻訳の画面の上部に「ドキュメントを翻訳します」という項目があり、ここをクリックするとファイルを指定することができます。PDFファイルも翻訳してくれるので、活用してみましょう。
DocTranslator
翻訳ソフトを使うと、文章のレイアウトが崩れてしまって読みにくくなることも。そんなときにおすすめなのがこちらのサービスです。
どのような文書フォーマットでも、維持しながら翻訳してくれます。
PDFファイルを分割したり、日本語訳したPDFファイルをダウンロードしたりすることもできる優れものです。
Google翻訳と同様に、インストールや登録なしで利用することができます。
2-2. ホワイトペーパーに書かれている具体的な内容
◆コインやトークンを発行した目的
コインが開発された目的についての記述です。
仮想通貨の場合、決済や送金など、金融関連の利便性を高めるために開発されているケースが多いです。時には、一般的な人々には直接関連のないように見えることもありますが、間接的に暮らしにプラスの影響をもたらす可能性もあります。
◆コインやトークンで期待できること(問題の解決や発展など)
コインやトークンが広まることで、社会のどのような課題解決へとつながるのかについて記述されます。
例えばある地域間の送金で3時間かかっているところを、コインを介することで数分に短縮する、といった具合です。
また、実現可能であることの裏付けとして、技術的な要素についても記述されます。例えばビットコインであれば、ブロックチェーンやマイニングなどに関する内容です。
やや難解な内容もありますが、コイン独自の強み・特長と深く関連する部分なので、基本的な内容だけでもできるだけおさえておきたいところです。
◆販売方法・配布方法などのロードマップ
そのコインをどのように販売し、広めていくのかについての計画です。いつ・どこで・何をするのか、コインとしていつ頃実用化するのかなどの計画・見通しが、時系列に沿って記載されます。
◆真正性など取引履歴の担保方法
仮想通貨で重要な項目の1つが、取引履歴の記録の正確性・迅速性です。
円やドルのような法定通貨と違い、履歴の担保を担う中央機関が存在しないため、履歴を正確に記録するための技術・システムが必要であるためです。
3. こんなホワイトペーパーは要注意!
ホワイトペーパーを読む際は、このような点に注意をして読んでみましょう。
3-1. 目的がいい言葉を書いてあっても、具体性・実効性がない
魅力的な言葉であっても、具体的でない内容なら、計画として当てになりません。
例えば、配当を出すと書いてあるが配当原資が不明、など。マーケティングが派手だったり、多額の資金を集めたりしていてもプロジェクトがすすまないケースは少なくないのです。
3-2. 開発スケジュールが決まっていない
具体的なスケジュールがあるかどうか、Githubや公式サイトをチェックしましょう。
Githubへのリンクがあっても中身が真っ白、ということもあるようです。技術に詳しい人への相談ができればより良いでしょう。
3-3. 記載されている技術はプロジェクトの質を向上させるものではない
仮想通貨にはさまざまな技術が搭載されています。各テクノロジーがどのようにプロジェクトに貢献していくのかについて、明確に記述されているか確認してみましょう。
3-4. 法令に違反している
日本では仮想通貨取引法の規制があるため、法令に違反していないことを明記している内容が望ましいです。
例えば自社で発行するトークンが仮想通貨に該当する場合、業者は「仮想通貨交換業者」としての登録を受けなくてはなりません。
3-5. プロジェクトやメンバーが実在しない
運営主体の所在地がわからない、記載内容が実在しない住所だったという場合も要注意です。特に新規通貨の場合は入念にチェックしましょう。
3-6. 普及していく見込みがない
投資対象として仮想通貨の適性を見極めるうえで大事なのは、「目的を実行していける技術なのか」「普及していくのか」「継続できるプロジェクトなのか」「セキュリティや技術は充分か」です。
基本的に普及しなければ価値がなく、価格上昇は期待できません。
また、2018年12月に開催された金融庁の研究会では、仮想通貨のホワイトペーパーについて、以下2点の施策が望ましいとの報告が発表されました。
- 第三者による発行者の事業、財務状況の審査
- 交換業者同様、発行者に業登録を求め、投資者への説明義務などの規則を課すこと
※平成30年12月21日 PDF:仮想通貨交換行等に関する研究会報告書
いずれも仮想通貨投資における利用者を保護するための見解です。
ICOでの投資判断を適切に行うため、この2点もあわせて意識しておくと良いです。
4. 国内主要通貨のホワイトペーパー
この章では、各通貨のホワイトペーパーの具体的な内容について見ていきましょう。
国内で代表的な通貨をピックアップしました。
4-1. ビットコイン(BTC)のホワイトペーパー
ビットコインのホワイトペーパーは、Satoshi Nakamotoという人物によって記述されたもので、全部で9章に及ぶ内容となっています。
1.Introduction
電子取引の際、現状では第三者機関の承認が必要です。しかし少額取引に向かない、コストが高いなどの問題があることから、第三者機関によらない電子取引システムを提言するという内容です。
2.取引
電子コインの定義と、コインの所有者移転についての内容です。仮想通貨は連続したデジタル署名のチェーンであること、チェーンを可視化する仕組みを作ることにより、不正や改ざんを防止するという内容です。
3.タイムスタンプ
取引は各スタンプサーバーから開始します。取引ごとの各スタンプサーバーは、その直前の内容を含むため、情報がどんどん増えていき、内容が強化されます。A→AB→ABC→ABCDといった具合です。
4.プルーフ・オブ・ワーク
コイン偽造を防ぐために備えられている仕組みが、プルーフ・オブ・ワークです。偽造するには情報をブロックの最初から書き換えなければなりませんが、その前に新たなブロックができてしまうため、実質的に偽造は不可能です。
5.ネットワーク
取引が発生すると、情報はすべてのノード(ネットワークに接続されている機器)にアクセスします。2つ以上のノードに接続されたときは、先に長く伸びたほうが正とされ、短いほうは長いほうにつながることで、ブロックとしてまとまります。
6.インセンティブ
ブロックを生成する人にインセンティブ(報酬)としてコインを支払う仕組みです。インセンティブ制度があるため、攻撃をするよりブロックを生成するほうが利益になり、ブロック生成に回る動機付けになるというロジックです。
7.ディスク・スペースをリクレイムする
ディスク・スペースを節約するため、重いデータ情報をカットする仕組みです。取引情報の記録が十分になると、以前の記録はルートのみになり、それ以外はカットされます。
8.簡易版支払い検証
取引がすべて完了していなくても、支払いについて検証できるシステムの内容です。
9.価値の統合や分割
取引で生じる金額を1セント、1円など非常に小さな単位で扱うのは非効率的であることから、まとめたり分けたりすることができる仕組みにしたという内容です。取引にはインプットとアウトプットがあり、インプットは間口が大きいのに対し、アウトプットは最大でも2つと狭く設定しています。
ビットコインのホワイトペーパー全文は、以下のリンクから確認できます。
PDF:https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
4-2. その他コインのホワイトペーパー
ビットコイン以外の主要な仮想通貨について、各ホワイトペーパーの概要を解説します。
・XRP(通称:リップル)
現在の銀行間の決済の仕組みは非効率的でコストが高いことから、XRPをコインとし、リップルネットワークを使った決済システムを提言する内容です。実現することで、処理速度の大幅アップ、取引コストの削減ができるとしています。
BTCは銀行などの第三者機関を必要としない仕組みを作ろうとしているのに対し、XRPは銀行のシステムを可能な限りそのまま使うようにしているという点に大きな違いがみられます。
(PDF:ripple solutions guide)
・イーサリアム(ETH)
ホワイトペーパーの概要をまとめると、イーサリアムは、ブロックチェーンを利用したプラットフォームであり、各開発者がプラットフォーム上にさまざまなアプリケーションを開発できるということ。開発での契約で支払われるコインがイーサリアムです。
単なる通貨ではなく、開発されるアプリケーションによって価値がもたらされるビジネスシステムであるというのがポイントです。
(GitHub/ethereum White paper)
・ビットコインキャッシュ(BCH)
ビットコインキャッシュにはホワイトペーパーが存在しません。
ビットコインキャッシュは、電波でお金を送受信する仕組みの「Cointext(コインテキスト)」を提言。世界中にいる、銀行口座を持たない人でも電子的なお金のやり取りができるようになることを目標としています。
SMS(テキストメッセージ)でやり取りする仕組みであり、携帯電話と電話番号だけで利用可能です。インターネットがない地域でもBCHのやり取りができます。
(公式サイト/bitcoincash.org)
・ライトコイン(LTC)
残念ながら、ライトコインにはホワイトペーパーが存在しません。しかし以下の特徴から、通貨としてはBTCに近いといわれています。
- 「ビットコインを補完する商取引媒体」と宣言している
- 中央集権型ではなく完全分散型を志向
- オープンソースでグローバルなネットワーク
ビットコインより多くのトランザクションの取り扱いが可能で、確認時間も短いため、より効率的な通貨取引ができると宣言しています。よって、ライトコインはビットコインをパワーアップさせた内容に近いといえます。
(公式サイト/litecoin.org)
まとめ
仮想通貨のホワイトペーパーについて解説しました。
通貨や関連のシステムの根本について述べられていて、通貨を理解するのに役立つことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
専門的で難解な部分もありますが、翻訳ツールなども活用しながら、ぜひ一度目を通してみることをおすすめします。
特に新規通貨のICOでは、ホワイトペーパーは投資判断を左右する重要な資料となります。
内容の真偽性・具体性・実現可能性などに注意して、じっくり読んでみてくださいね。