
ビザンチウムとは、イーサリアムで行われる予定のハードフォークのうちの1つです。
ハードフォークが行われると、その仮想通貨(暗号資産*)の基本的な仕様(ルール)が変更されます。
そのためハードフォークが行われた後は、ウォレットなどをアップデートしていなければ、その仮想通貨が使えなくなってしまいます。
もちろん取引所にも多大な影響がありますし、価格にも動きが出てくるでしょう。
そのためハードフォークが行われる時期や仕様の変更内容、どう対処すれば良いのかを知ることは、とても重要なことです。
今回はそんなイーサリアムのハードフォーク、「ビザンチウムハードフォーク」について、詳しく説明します。
*)2018年12月の仮想通貨交換業等研究会による報告書において、呼び名を「暗号資産」とする内容が取りまとめられました(参考|「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第11回)議事次第)
目次
1. ビザンチウムとはイーサリアムのアップデートのこと
冒頭で説明したように、「ビザンチウム」というのはイーサリアムのハードフォークの名称です。
そしてハードフォークというのは、仮想通貨の基本的な部分の仕様(ルール)変更のことです。
もちろん、事前に決まっていた対応だけではなく、セキュリティ的に問題となりえる可能性がある部分や、時代や状況に合わなくなった部分の変更もあります。つまり、「ハードフォーク=大規模なアップデート」と考えるのが妥当でしょう。
特に、セキュリティ的な観点や、スマートコントラクトに関する部分の変更などは、仮想通貨を取り巻く状況によって時々刻々と変わりますので、ハードフォークによってそれらの変化を取り入れることは、仮想通貨が安定的に発展するうえで避けられないことです。
Windowsなどでも、定期的にパフォーマンスの改善やセキュリティ対策などのアップデートが行われますが、イーサリアムでは、そのアップデートがサービス開始当初から予定されているということになります。
もちろん、ハードフォークで問題点や機能が改善されるわけですから、仮想通貨の価格に少なからず影響を与えることになるでしょう。
有名なハードフォークとして、2017年8月に行われたBitcoinのハードフォークと、2018年11月に行われたビットコインキャッシュのハードフォークがあります。
どちらも、その後に価格が大きく変動しており、ビットコインはハードフォーク後に価格が右肩上がりになり、ビットコインキャッシュは逆に大きく下がっています。
価格が上がるのか下がるのかは、そのハードフォークの内容や状況に依存しますが、ハードフォークが価格に影響を与えているということを表す好例だと言えます。
2. ビザンチウムでイーサリアムの価格は上がった
イーサリアムのハードフォークの1つであるビザンチウムが行われたとき、イーサリアムの価格はどうなったのでしょうか?
まずは当時のチャートを見て大きな流れをつかんでいただいた後に、詳しく解説していきます。
2-1. ビザンチウムの、ETH価格への影響は?
まずはチャートを確認しましょう。
2017年10月16日のハードフォーク前に一気に上がり、その後徐々に元の価格に戻りましたが、その後価格が上がっています。
単純に考えると、ハードフォークによる値上がりの差益を狙った動きと考えられます。しかし元値を割っていないところから、ハードフォークが市場に与えたインパクトはそれほど大きくなく、むしろプラスに受け入れられたといった印象です。
イーサリアムのハードフォークについては、大きな目標としては対応内容が決まってはいますが、詳細な内容はその時期の状況や技術的な進歩によって違ってきます。
また個々の対応内容は、ユーザーやマイナーにとって、あまりうれしくないものであることもあります。
しかしそういったことを踏まえても、最終的な価格を見る限り「ビザンチウムハードフォークによって、価格が上がるための土台ができ、実際に上昇した」といった見解が妥当ではないでしょうか。
2-2. 価格に影響を与えた原因
ビザンチウムが「価格を上げる土台を作った」という点について、説明しましょう。
ポイントは、ビザンチウムで実施された以下の対応です。
- マイニングの難易度調整と難易度上昇の延期
- マイニング報酬の減少
明らかに、どちらもマイニングに影響があるものです。そして、前者はマイナーにとってうれしい半面、後者は厳しい内容となっています。
これではプラスマイナスゼロだと考えるかもしれませんが、実はそうではありません。これらがセットになることで、イーサリアムを安定させて、未来へつなげる働きがあるのです。
それぞれについて、少し詳しく説明しましょう。
マイニングの難易度調整と難易度上昇の延期
ビザンチウム以前のイーサリアムは、PoWによるマイニングの難易度を徐々に上げることで、PoSへの移行をスムーズに行おうとしていました。
しかしマイニングの難易度が上がるということは、マイニングにより大きな計算量や計算時間が必要になります。そして計算時間がかかるということは、決済に時間がかかることを意味します。
そのためイーサリアムは通貨としてだけではなく、種々の取引での利便性が下がっていました。
そこでビザンチウムで、マイニング難易度上昇をいったん停止し、難易度を上昇以前の水準に戻す対応が実施されたのです。(ただし、PoSへの移行を促すために、マイニング難易度を上昇させることは決まっています。そのため、延期と表現されているのです)
これはユーザーやマイナーにとっては明らかな改善ですので、これだけで「価格が上がる」と感じるかもしれません。
しかし実際には逆の可能性が高いのです。
この対応だけだった場合、マイナーは大量のイーサリアムを手にできます。すると、マイナーは、初期投資を回収するため、手に入れたETHを売り始めます。つまり、市場に大量のETHが流れることになります。
市場に通貨があふれるというのは、いわゆるインフレです。インフレになると通貨の価値は下がります。つまりマイニング難易度の調整によって、ETHの価格が下がる恐れがあるわけです。
そのためこの対応は、もう1つの対応とセットになっています。
マイニング報酬の減少
ビザンチウムでは、マイニング報酬が5ETHから3ETHに減少しました。
つまりマイナーは今まで通りの速度で計算できる代わりに、4割も報酬を減らされたわけです。これでは、マイナーの不満が大きいと思われがちです。
しかし前述の「難易度調整と難易度上昇の延期」の対応と合わせれば、報酬にそれほど大きな違いがないことが分かっています。
そのため、マイナーは今まで通りの報酬を計画的に得ることになりますので、インフレの心配はほとんどないわけです。
そのうえで、問題となっていた決済時間の遅れを一気に解消できました。
つまり「難易度調整と難易度上昇の延期」と「報酬の減少」という2つの対応によって、イーサリアムは、何も失うことなく、以前の使いやすさを手に入れたということになるでしょう。
またそれだけではなく、「インフレ対策を行った」実績は、通貨の信頼性にとってとても重要なことです。これこそ、価格が上がる土台と言えるものなのです。
マイニングの難易度を下げて、報酬を減らしたことで、マイナーの報酬に違いがないという点について、具体的に説明しておきましょう。
まず、マイニングの難易度が下がるということは、短時間で得られるETHが増えたということです。具体的には、ビザンチウムによって、マイナーがETHを得られるまでの時間が半減しました。つまり、同じ時間で得られるETHが、2倍になったわけです。
しかし、同時に、1度の計算で得られる報酬が5ETHから3ETHへ減少しています。
つまり、マイナーが10分間に得られる報酬を、ビザンチウムハードフォークの前と後で単純計算すると、以下のようになります。
- ビザンチウム前
10分÷30秒×5ETH=100ETH
- ビザンチウム後
10分÷15秒×3ETH=120ETH
結果的に、ビザンチウムハードフォーク後の方が10分間あたりに得られる報酬が上がっています。ただし、他にも要因がありますので、ここまで報酬が上がらず、同程度の水準に落ち着いたというわけです。
3. ビザンチウムで変わったのはここ!
前項で説明した、「マイニングの難易度調整と難易度上昇の延期」と「マイニング報酬の減少」以外にも、ビザンチウムでは重要な修正が行われています。
それらを詳しく説明しておきます。
3-1. ゼロ知識証明
送信アドレスや送金額などの情報を隠したまま、送金することができる機能です。
仮に通信を傍受されて解読されたとしても、そこにアドレスや送金額の情報がありませんので、ユーザーのプライバシーは完全に守られることになる機能です。
この機能によって、イーサリアム上での匿名投票が実現できるようになりました。
3-2. Difficulty Bombの延期
前章にて「マイニングの難易度調整と難易度上昇の延期」と説明したのが、この対応です。
Difficulty Bombというのは、PoWからPoSへの移行を促すために、徐々にマイニングの難易度を上げるもので、ビザンチウム以前に導入されていました。しかし、PoSへの準備が整う前にマイニング難易度だけが上がっていくことで、決済速度の低下などマイナスの影響が現れていました。そのため、Difficulty Bombについて、いったん難易度を元に戻して実施を遅らせる方向に修正されました。
これによって、決済速度がDifficulty Bomb導入前の水準に戻り、ETHの利便性が高まっています。
マイナーにとっては、より少ない計算量で報酬を得られますので、有利になるように考えられますが、次項のブロック報酬の減少と合わせると、得られる報酬はほぼ相殺されています。
3-3. ブロック報酬の変更
こちらも前章で紹介したもので、「マイニング報酬の減少」にあたるものです。
ブロック報酬(=マイニング報酬)が5ETHから3ETHへ減少しています。これによって、Difficulty Bombの延期によるPoWへの固持を牽制し、PoSへの移行を促しています。
また、前述しているとおり、「Difficulty Bombの延期」と「ブロック報酬の変更」を同時に行うことで、マイナーの報酬量の変動を押さえてETHの価格への影響を最小限にしたうえで、インフレを抑えてETHの価値を上げることに成功しています。
3-4. マスキング
公開鍵(イーサリアムアドレス)を自由に決めることができる機能です。
それまではイーサリアムアドレスは、ユーザーの秘密鍵から特定のアルゴリズムに沿って生成されていました。つまり、量子コンピュータなど膨大な演算力のあるコンピュータがあれば、アドレスから秘密鍵がばれてしまう可能性があるわけです。
イーサリアムアドレスをユーザーが任意に生成できれば、どんな計算をしても秘密鍵が漏れることはありません。そのためマスキングを利用することで、セキュリティ面で強化されたということになります。
3-5. スマートコントラクトの仕様変更
一般のユーザーにはあまりなじみがないかもしれませんが、スマートコントラクトの仕様がいくつか変更され、スマートコントラクト上で動作するアプリケーション(DApps)の実装や実行がやりやすくなっています。
結果的に、より柔軟なサービスの登場が期待できるでしょう。
4. イーサリアムの4つのハードフォークについて
最後に、イーサリアムのハードフォークについて、まとめておきましょう。
冒頭で説明したように、イーサリアムには最初からハードフォークの予定が決まっています。
それらのハードフォークについて、簡潔に説明します。
4-1. イーサリアムの4つのハードフォーク
イーサリアムのハードフォークは、以下のように、4つ(うち1つは2回に分けて実施なので、計5つ)が予定されています。
このうち、メトロポリスの前半であるビザンチウムが2017年9月に実施されており、こちらの記事ではその内容を詳しく説明しています。
それ以前のフロンティアとホームステッドはすでに完了しており、残るはメトロポリスの後半であるコンスタンティノープルと、最終ハードフォークであるセレニティを残すのみとなっています。
4-2. フロンティアとホームステッドの内容とは?
まずは、ビザンチウムの前に行われたフロンティアとホームステッドについて、対応内容を紹介しましょう。
フロンティア
2015年7月30日にリリースされた、技術者向けのテスト版アップデートです。
そのため、バグが発見された場合には以前まで戻ってやり直すことができるような機能もあります。また、Genesisブロックを手動で生成して、正しい場所へ格納する手間もかかりました。
まだまだ動作検証中の、アルファ版といったバージョンです。
ホームステッド
2016年3月14日にリリースされた、技術者向けのベータ版アップデートです。
アップデートの内容としては、スマートコントラクトの利用手数料の引き上げとマイニングの難易度調整など、基本的な機能追加です。
フロンティアよりも安定しており、多くの個人や技術者が、ホームステッドハードフォーク以降、イーサリアム上で動作するアプリケーションを作成し始めました。その結果、この時期からETHの価格が上昇しています。
4-3. メトロポリスの前半としてのビザンチウム
ビザンチウムハードフォークが2017年10月16日に実施されましたが、前述のとおり、ビザンチウムは、メトロポリスハードフォークの前半戦です。
メトロポリスには、次にコンスタンティノープルハードフォークが予定されており、その実施によってメトロポリスハードフォークが完了となります。
そして、その後に最後のハードフォークとなるセレニティが実施されると、イーサリアムはひとまず完成するわけです。
では、コンスタンティノープル、セレニティについて解説しましょう。
コンスタンティノープル
2018年中に実施の予定でしたが、テストネットでバグが発覚し、2019年以降に延期されています。
コンスタンティノープルで行われる対応のいくつかは、マイナーにとって厳しいものであり、価格への影響が大きくなってしまう懸念があります。しかし、詳しく見てみると、実にうまく影響を抑えていることが分かります。
なにより、この対応はセレニティで実装されるPoSへの移行準備になりますので、ここでやっておかなければいけない重要な対応と言えるものです。
セレニティ
フロンティアから始まるすべてのハードフォークは、セレニティを見据えて行われているもので、セレニティ実施後、ようやくイーサリアムが完成となります。
セレニティでは「PoWからPoS」への移行がもっとも重要な対応内容であり、その結果、スケーラビリティ問題も解決されると期待されています。
スケーラビリティ問題というのは、取引量増加による「送金詰まり」問題のことです。
大量の送金処理が発生すると、それを処理するためのブロック生成(マイニング)が追いつかなくなり、決済時間が大きくなります。
この問題の解決策は、1度に複数のブロックを生成できるようにマイナーをグループ分けするなどして並列に処理させることです。しかし、PoWでは計算の処理能力をうまく分散することができず、うまくできません。
しかしコインの保有量で決まるPoSであれば、マイナーのグループ分けも難しくなく、ブロック生成(決済処理)を並列に行うことで、スケーラビリティ問題を解決することができるのです。
まとめ
イーサリアムのビザンチウム、およびハードフォークについて説明しました。
イーサリアムは、セレニティハードフォークでのPoS実装を踏まえ、確実に対応を進めています。ビザンチウムで行われた対応も、ほとんどがPoSへの準備と言っても良いものです。
ただし「Difficulty Bombの延期」のように、手戻りのような対応もあり、少し不安な面もあるかもしれません。しかし、敢えて実施した対応を戻すことで、フレームワークとしての安定した運用を保証してくれているわけですので、珍しく固い進め方をしている仮想通貨だとも言えます。
仮想通貨を選ぶとき、その開発方針はとても重要なポイントです。そのため、イーサリアムの少し固めとも言える開発方針は、インセンティブとして働くものと思われます。
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