
仮想通貨でステーブルコイン(ペッグ通貨)というものを聞いたことはありませんか?
ステーブルコインとは価格が変動しない仮想通貨のことです。
仮想通貨における課題とされてきた価格の不安定さを解決し、実用面で普及するのではないかと期待をよせられています。
こちらの記事を読んでステーブルコインの基本をおさらいし、仮想通貨への投資やニュースを読む際の知識として役立ててくださいね。
目次
1. ステーブルコインとは基軸通貨と連動した仮想通貨のこと
ステーブルコインを知る上で重要なポイントは「安定性」です。この章では、ステーブルコインの特性について解説していきます。
1-1. 安定した価格を提供できる
ステーブルコインとは、法定通貨など基軸通貨の価格と連動した仮想通貨のことです。
こちらのチャートはアメリカドルと連動している「テザー(USDT)」のチャートです。
価格が安定している基軸通貨に紐づけすることで、価格変動の大きさゆえに不安定とされる仮想通貨市場において、安定的かつ実用的な仮想通貨として使用できると考えられています。
仮想通貨の中ではビットコインが基軸として一番安定かつ利用されており、多くの取引所でも対取引ペアとして採用されています。
ステーブルコインとして成立させるためには、担保として管理する基軸通貨と、発行したステーブルコインとで同等の価値分を保有しておく必要があります。これは際限なくステーブルコインを発行できてしまうことを防ぐ意味があります。
1-2. 投資対象として利用されていない
一般的に仮想通貨といえば値上がり益を狙った投資対象としての側面を持っています。
値上がり益を期待することから、価格変動による利益を得るために投資している人も少なくありません。
しかしステーブルコインは価値が一定に推移している通貨であることから、一般的な仮想通貨のように投資対象として値上がり益を狙うことはできません。
実際にはわずかに価格が変動しており、それを狙って投資している人も存在しますが、ステーブルコインと一般的な仮想通貨とは違うということは注意しておきましょう。
2. ステーブルコインは国内の仮想通貨取引所では現在購入できない
現在国内の仮想通貨取引所でステーブルコインを購入することはできません。現時点での動きや課題を解説していきます。
2-1. 金融庁はステーブルコインを仮想通貨ではないと認識している
Bitcoin.comは2018年10月、「ステーブルコインは仮想通貨とはみなされない」という見解を金融庁が示していると報じました。
Bitcoin.com|Japanese Regulator: Stablecoins Are Not Cryptocurrencies Under Current Law
金融庁の見解としては、法定通貨と連動しているステーブルコインに対して、改正資金決済法が定めるところの「仮想通貨」としてはみなされないとのこと。
改正資金決済法によると、仮想通貨とは以下のように定義されています。
物品を購入し、もしくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
この中にある「本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く」という記載が、ステーブルコインが仮想通貨として分類されない理由です。
日本でステーブルコインを取り扱うためには、商品券やプリペイドカードなどの発行を行う「前払式支払手段発行者」または銀行などの「資金移動業者」として登録する必要があると金融庁は話しています。
2-2. JCBAは仮想通貨として扱うことを提案
2019年3月に、JCBA(一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会)は、「新たなICO規制についての提言」を発表し、そのなかで「ステーブルコインは仮想通貨として規制すべき」と提案しました。
新たなICO規制についての提言によると、ステーブルコインについての法的な枠組みが不明瞭であることから、これらの通貨の流通や認知を阻害しているとのこと。
ステーブルコインは仮想通貨と同じ技術基盤に基づいており、なおかつ主に仮想通貨取引所の取引に利用されていることから、仮想通貨と同様に扱うことが適切であると述べています。
JCBA|新たなICO規制についての提言(pdf)
これを受けて金融庁がどう判断するかは現状分かりません。しかし日本でのステーブルコインの扱いが変わる可能性もあり、今後の対応には注目しておくべきでしょう。
3. ステーブルコインが持つメリット・デメリット
この章ではステーブルコインが持つメリット・デメリットについて解説していきます。
メリット1. 仮想通貨市場の安定性に貢献している
価値が一定であることが、ステーブルコインの一番のメリットといえるでしょう。
価格変動の大きい仮想通貨にとって価格の安定性は大きな課題の一つでした。ステーブルコインは別の安定資産と連動することによって価格の安定性をもたらし、仮想通貨取引をしやすい環境を形成してくれると考えられています。
ステーブルコインを使うことでユーザーたちは安心して決済や送金ができるということです。
メリット2. 資産の退避先としてステーブルコインを利用できる
ステーブルコインは価値が一定であることから、資産の退避先として保有することもできるという構想があります。
価格変動の大きい仮想通貨市場において、次の日には通貨の価値が半分になっていることも珍しくありません。
しかしステーブルコインはこういった価格変動リスクを回避する、資産の退避先としても利用できます。ビットコインが下落相場で停滞している際に、もっと下がると思えばステーブルコインに退避することで資産を守れるということです。
デメリット1. 発行元の不正を見抜けない
ステーブルコインのデメリットは、発行元となっている組織の資金管理が適切に行われているかどうかを、私たちユーザーが確認できないことです。
2018年にアメリカドルと連動しているステーブルコイン「テザー(USDT)」が、裏付けとなる資産を同価値分保有していないのではないかと疑問視され、話題になったことがあります。
Bloomberg|U.S. Regulators Subpoena Crypto Exchange Bitfinex, Tether
米商品先物取引委員会(CFTC)が、通貨発行元であるテザー社とその経営者が運営している香港の仮想通貨取引所ビットフィネックス(Bitfinex)に対して、ステーブルコイン発行の担保としている資金の証拠書類の提出を求めたとブルームバーグは報じています。
実際担保資産を保有しているのかを証明することは難しく、本当に同価値分の資産を保有しているのかはテザー側でしかわかりません。
ステーブルコインを利用する上で、発行元の資産の所在を私たちユーザーは知ることはできず、発行元を信用するしか方法はありません。
デメリット2. 値上がり益は狙えない
ステーブルコインは価値が一定であることから、一般的な仮想通貨のような値動きはしません。よって仮想通貨投資としてステーブルコインを購入しても稼ぐことはできません。
ステーブルコインは安定的な基軸通貨と連動していることから、あくまで価値を保存するための通貨なのです。
4. ステーブルコインは3つに分類される
ステーブルコインにはいくつか種類がありますが、大きく3つに分類されます。
ステーブルコインの種類
- 法定通貨担保型
- 仮想通貨担保型
- 無担保型
4-1. 法定通貨担保型:法定通貨と連動するステーブルコイン
法定通貨担保型とは、仮想通貨の発行量に対して1対1の割合で裏付けしている法定通貨を預け、価格を一定に保っているステーブルコインのことです。
特に法定通貨は安定的な資産であることから、多くのステーブルコインが採用しています。
例えば、法定通貨担保型の代表的なステーブルコインの一つに「テザー(USDT)」があります。
アメリカドルと連動しているテザーの場合、発行元のテザー社が、テザーの発行量と同価値分のアメリカドルを銀行に預けることで、1USDT=1USDのレートを保つ仕組みとなっています。
4-2. 仮想通貨担保型:仮想通貨と連動するステーブルコイン
仮想通貨担保型とは、仮想通貨を担保に価格を一定に保つ仕組みである通貨のことです。
仮想通貨担保型は法定通貨担保型と違って、すべてのことをスマートコントラクトという自動取引システムが行う仕組みとなっています。そのため、担保資産の預け先である金融機関やプログラムの管理者などの管理者を必要としません。
仮想通貨担保型の代表的な通貨の一つに「MakerDAO(DAI)」があります。
MakerDAOはイーサリアムを担保にトークンを発行しており、担保にしたイーサリアムの最大3分の2相当までの価値があるトークンを発行することができます。
MakerDAOなどの仮想通貨担保型のステーブルコインは、価格変動が大きいゆえに通貨保有リスクが高まることから、担保した額よりも少ない金額でしか手に入れてることができません。
4-3. 無担保型:通貨供給量によって価値を担保するステーブルコイン
無担保型は名前の通り、担保となる資金を必要としません。
無担保型は、従来の中央銀行が行っているような通貨供給量の調整を、アルゴリズムによって行うことで、価格を一定に保つ仕組みを持っています。シニョリッジ・シェア型とも呼ばれており、低コストでステーブルコインを発行することができます。
通貨がインフレしていれば供給量を減らし、一方デフレであれば供給量を増やすといったことを、発行元がスマートコントラクトのコードで実行します。
しかし無担保型のステーブルコインは、規制が厳しい国で現行法に抵触する恐れがありプロジェクトを継続することが厳しいのが現状です。
無担保型の代表的な通貨の一つに「BASIS(ベーシス)」がありました。しかしBASISもアメリカの規制ガイダンスが明らかになるにつれ、規制環境の厳しさから2018年12月に自主撤退をしています。
5. 大手のIT企業や金融機関がステーブルコインの開発を進めている
国内では、銀行やIT企業がステーブルコインの開発や発行に向けてプロジェクトを進めています。大手企業がステーブルコインの発行で仮想通貨市場に参入することは、仮想通貨市場の安定を図ることにも繋がります。
5-1. GMO Japanese Yen:仮想通貨を使った決済事業に参入を発表
GMO Japanese YenはGMOインターネット株式会社が発行するステーブルコインで、日本円と連動している法定通貨担保型です。
GMO Japanese Yenのプロジェクトは、GMOインターネット株式会社の仮想通貨事業における「決済」への参入を見据えてのこと。将来的には安定した仮想通貨を使った取引の提供を目指し、2019年度を目処にアジア地域へ向けて発行開始される予定です。
GMO INTERNET GROUP|日本円と連動したステーブルコイン(円ペッグ通貨)「GMO Japanese YEN(ティッカーシンボル:GJY)」をアジア地域で2019年度に発行
5-2. JPMコイン:銀行間の決済ネットワークとして開発中
JPMコインはアメリカの大手投資銀行JPモルガンが発行するステーブルコインで、法定通貨を担保とし価格を連動しています。
現在企業間での国境をまたいだクロスボーダーでの取引や決済を対象に開発が進められており、私たちユーザーがJPMコインを利用できる可能性はあるとのことですが確定ではないようです。
ところが、JPMコインは仮想通貨ではないという批判的な声があがっています。
アメリカの仮想通貨シンクタンクであるジェリー・ブリトー氏は、JPMコインは仮想通貨ではないと発言しました。
If JPM Coin is a cryptocurrency, then so is Fortnite V-Bucks.
— Jerry Brito (@jerrybrito) February 14, 2019
また自身のブログのなかで、JPモルガンが発行する仮想通貨を利用するには、JPモルガンのKYCに通った企業しか利用することができず、仮想通貨の特性であるパブリックであることに反する点。また、ただの銀行間の決済ネットワークである点から、JPMコインは仮想通貨ではないと述べています。
ジェリー・ブリトー氏は、仮想通貨という言葉の意味を失うことのないようにする必要があると締めくくっています。
JERRY BRITO BLOG|Why It’s Important to Point Out That JPM Coin Is Not a Cryptocurrency
JPMコインについてはクロスボーダー取引においてSWIFTやリップルの競合になるという見方がされているようです。
主に金融取引で使われており送金や決済のときに行われます。
海外から日本の株式を購入できるのもクロスボーダー取引が行われているといえるでしょう。
5-3. Jコイン:決済アプリとして登場、加盟店に対して低手数料を提供
Jコインは、みずほファイナンシャルグループやゆうちょ銀行が開発を行っているステーブルコインです。日本円と1対1の割合で裏付けられており、安定した価値を持っているとされています。
Jコインは2019年3月1日からすでにサービスを開始しており、J Coin Payというアプリを使うことで利用できます。J Coin Payは、お金を送る・送ってもらう・支払うというような決済場面において無料で行うことができます。
サービスの加盟店舗は、これまでクレジットカードを使用する場合2~5%の手数料を取られていたところ、これを大きく下回る低手数料で行えるとのこと。
話題となったPayPayをはじめ、最近多くの決済アプリがリリースされていますが、熾烈を極め同時に多くのサービスが終了しています。
決済アプリが定着しない日本において、メガバンクが初めて取り扱う仮想通貨であるJ Coin Payはもしも普及することができれば、同時に仮想通貨の普及の後押しとなるかもしれません。
まとめ
ステーブルコインについて解説しましたが、まとめると以下のようになります。
- ステーブルコインは法定通貨を担保に、価格を一定に保つ仕組みを持つ仮想通貨
- 価格変動の大きい仮想通貨において、価格の安定性をもたらすと考えられている
- 法定通貨を担保とするステーブルコインを「法定通貨担保型」
- 仮想通貨を担保とするステーブルコインを「仮想通貨担保型」
- 担保を必要とせず、中央銀行のように通貨発行量を調整するステーブルコインを「無担保型」
ステーブルコインは価格が一定であることから、価格変動が大きいゆえに不安定だという仮想通貨の課題を解決すると考えられています。
現状日本でステーブルコインを購入することはできませんが、今後の金融庁の動向にも注目しておきましょう。