
このページを訪れた方は、仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーン、Webサービスの文脈で、「トークンエコノミー」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
トークンエコノミーの概念は広く知られている訳ではないので、「なんとなく気になるけどよく分からない」という状態の方も多いはずです。
そこで本記事では、トークンエコノミーの基礎知識や国内外の事例を紹介し、その可能性を解説していきます。
目次
1. トークンエコノミーとは?
トークンやトークンエコノミーという言葉は、馴染みがない方も多いのではないでしょうか?まずは、その意味を理解していきましょう。
1-1. そもそもトークンとは
トークン(token)とは、証票(証明のための札や書き付け)のことであり、何らかの権利や財産的価値について証明するためのものです。仮想通貨やブロックチェーンの文脈におけるトークンは、「ブロックチェーンを用いて電子的に発行された証票」という意味合いがあり、仮想通貨もトークンの一種だと説明できます。
したがって、トークンと聞いたらまずは「仮想通貨のようなもの」と理解しておくのが良いでしょう。
留意していただきたいことは、トークンの意味について、明確な定義や国際的な合意が形成されている訳ではないという点です。本記事の説明はあくまでも、2020年1月現在の状況を踏まえたものとなっています。
また、トークンは証票(証明のための札や書き付け)のことであり、何らかの権利や財産的価値について証明するためのものです。本来の意味としては、ブロックチェーン上で発行されているかどうかは関係ありません。
ただ、本記事ではあくまでも、ブロックチェーン上で発行されたトークンについて説明していきます。
1-2. トークンエコノミーとは?
トークンエコノミーとは、トークンによって形成される経済圏のことです。
通貨のように扱われるトークンを用いて、商品やサービスの取引が行われる経済圏をトークンエコノミーと呼んでいます。
本記事ではトークンのことを「ブロックチェーンを用いて電子的に発行された証票」と説明していますが、ブロックチェーン上で発行されていない法定通貨やポイントなども広義にはトークンと捉えられます。したがって、実は法定通貨やポイントで取引される経済圏も一種のトークンエコノミーだと考えられるのです。
1-3. トークンエコノミーのメリットとは?
2008年にブロックチェーンという技術が考案されてから10年以上が経ち、トークンエコノミーという概念が徐々に普及しつつあります。そのメリットは何なのでしょうか?
端的に説明すると、価値を持ったトークンは、人々の行動を望ましい方向に誘導していくためのインセンティブ(誘因)として使えるポテンシャルを秘めているのです。
例えば、1日の歩数が多いほどトークンが付与され、そのトークンを何らかの商品と交換できるWebサービスがあるとします。サービスの利用者の中には、トークンをより多く獲得するために普段より長い距離を歩く人も出てくるはずです。利用者はあくまでもトークンの獲得を目的に行動していますが、多く歩いた結果として、より健康的な生活を送るようになります。
このように、トークンは人々に望ましい行動を促すインセンティブとして機能する可能性があるのです。
2. トークンエコノミーの具体的事例を紹介!
それでは、トークンエコノミーの事例を紹介していきます。
2-1. ビットコイン(BTC)
実は、トークンエコノミーとして大きな成功を収めているのがビットコインです。ビットコインというトークンを経済的なインセンティブとして機能させることで、過去どのプロジェクトも成し遂げられなかった分散型のデジタル通貨を成立させています。
ビットコインの新規発行や新しいブロックの生成には、膨大な計算コストが発生します。この計算を担っているのが「マイナー」(採掘者)と呼ばれる参加者(実体としてはコンピューター)です。
詳しい仕組みの解説は、当メディアの以下の記事に譲りますが、マイナーが膨大なコストを支払って計算しているおかげで、ビットコインは過去10年以上もの間、大きなトラブルも無く、稼働し続けています。
そして、マイナーたちが計算し続けている理由は、新しくブロックを生成することで得られるマイニング報酬(=ビットコインというトークン)が欲しいからです。2020年1月時点では、ブロックを生成したマイナーが獲得できる報酬は、12.5BTC(約1,010万円。2020年1月6日のレートから)となっています。このマイニング報酬が、経済的なインセンティブになっているのです。
マイナーたちは誰かに強制されてマイニングを行っているわけではなく、あくまでも自身の経済的な合理性を追求して行動しているに過ぎません。ところが、その結果として、ビットコインが安全に稼動し続けるのに一役買っているのです。
2-2. LINE Token Economy
日本人にとって身近なメッセージアプリである「LINE」は、トークンエコノミーを念頭に置いた構想「LINE Token Economy」を2018年に発表しています。この構想の狙いは、ユーザーがアプリを改善・普及させるインセンティブとなるトークンを用いることで、サービス提供者とユーザーの共創関係を構築することです。
(参考:LINE株式会社 コーポレートニュース https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2366)
例えば、LINE Token Economyの一環として日本ユーザー向けに提供された Q&Aサービス「Wizball」では、質の高い回答を行ったユーザーに対してトークン(LINK Point)が付与される仕組みとなっており、サービス全体の質を向上させる仕掛けが施されていました(Wizball自体は2019年9月30日に終了)。
LINE Token Economyの可能性
内情は分かりませんが、LINE Token Economy構想の枠組みでリリースしたサービスが、複数クローズしていることから、この構想は何らかの困難に直面しているのでしょう。
しかし、トークンエコノミーという観点から見ると、LINE Token Economyは大きな可能性を秘めています。
仮想通貨LINKとLINKポイント
まず、LINE Token Economyでは、海外向けには「LINK」という仮想通貨、国内向けには「LINK Point」というポイントがトークンとして流通しています。
LINK Pointは一定の交換レートで「LINEポイント」と交換可能です。つまり、LINK Pointの価値はビットコインのように変動することなく、安定しています。
日本国内において、仮想通貨ではなくポイントが流通しているのは、法規制との兼ね合いが要因です。

2020年1月現在、日本国内では金融庁の許可が無いため、仮想通貨LINKを国内業者が取り扱うことは不可能です。
しかし、仮に規制当局の承認が降りてLINKが日本でも流通し、ビットコインなどの主要な仮想通貨や日本円とスムーズに交換できるようになると、LINE Token Economyの可能性は大きく広がるかもしれません。

上図は2018年10月以降のLINKの価格チャートです。
当然ながら、LINK Pointとは異なり、LINKの価格や他の通貨との交換レートは常に変動しています。つまり、価格上昇の期待が織り込まれ、LINKはキャピタルゲインのあるポイントのようなものとして機能する可能性があるのです。そうなれば、インセンティブとしてのトークンの価値が向上すると考えられます。
LINKが国内で扱われるかが注目ポイント
実はLINEのグループ会社には、既に仮想通貨交換業の登録を済ませている「LVC株式会社」があります。LINKが仮想通貨のホワイトリスト入りすれば、同社の運営する仮想通貨取引所で上場する可能性が高く、実現すればインセンティブトークンとして、LINKが使えるようになります。
そうなれば、LINKのインセンティブとしての効果は強化されるでしょう。国内におけるLINE Token Economyは、LINKが上場するかによってポテンシャルが大きく変わってくるのです。

2-3. Brave
最後の事例は、次世代型の広告モデルを実現するWebブラウザ「Brave」です。
Braveはプライバシーを重視しており、Web広告やWeb閲覧記録の追跡ツールをブロックする機能が標準搭載されています。ブロック機能が標準搭載されている理由は、現在のWeb広告は広告代理店による中間搾取やトラッキングツールに溢れているからです。

一般的にWeb広告の主な当事者としては、パブリッシャー(Webメディアなどの媒体主)と広告主、ユーザーという三者が存在しますが、広告主が支払う費用の多くは三者の間に存在する広告代理店に吸収されてしまいます。
広告代理店とは、具体的にはGoogleやFacebookのことを指しています。両社はWebブラウザやSNSアプリを通してユーザーの個人情報を大量に取得することで、最適な広告掲載サービスを提供し、大きな収益を挙げています。
広告料の多くはこのような広告代理店に吸収されてしまうので、パブリッシャーが代理店以上に収益を挙げることはありません。
トークンによって広告の収益分配モデルを再構築する

ブラウザを使い広告を見ると報酬がもらえる
Braveには「Basic Attention Token」(BAT)というトークンが紐付いており、Web広告を視聴したユーザーや広告を掲載したパブリッシャーに対して、広告料が中間搾取されることなく分配されます。さらに、広告をブロックする機能が標準搭載されたBraveで、敢えて広告を閲覧すると、ユーザーは報酬としてBATを獲得可能です。
このようにBraveはトークンによって、ユーザーが広告を閲覧するインセンティブを確保しつつ、個人情報や広告料を大手企業が中間搾取しないという新たな広告モデルの実現を目指しています。Braveの取り組みが上手く行くかは時間が経たなければ分かりませんが、少なくともBrave自体はユーザーに評価されているようです。

デイリーアクティブユーザ数は2019年を通して右肩上がりに伸びており、2019年11月時点で330万人に到達しています。
日本のユーザーも利用できるので、興味のある方は使ってみてはいかがでしょうか?
3. 実はポイントもトークンエコノミーと言える
実は日本人は、既にトークンエコノミー的なものに馴れ親しんでいます。それは企業が発行しているポイントです。
本記事を読んでいる方の多くが、ECサイトで頻繁に開催されている「ポイント還元セール」を見て、ついつい商品を買ってしまったことがあるのではないでしょうか?
身に覚えのある方は、ポイントというトークンがインセンティブとして有効に機能し、トークンが購買行動に繋がることを既に体験していると言えるでしょう。
2020年1月現在では、ブロックチェーン上で流通するトークンは、企業が発行するポイントほど身近ではありません。
しかし、将来的にはトークンがポイントの様に日常生活に溶け込み、インセンティブとして機能する時代が来る可能性はあります。
まとめ
トークンエコノミーとは、トークンを軸に商品やサービスが取引される経済圏のことです。トークンは人々の行動を望ましい方向に誘導できる可能性を秘めており、その成功例としてはビットコインが挙げられます。
一方で、トークンエコノミーの構築に苦戦している事例も少なくありません。
トークンエコノミーと聞くと、何やら真新しい概念のように思えます。しかし、実は日本人が昔から馴染みのあるポイントもトークンエコノミーの一種だと考えられ、今後ブロックチェーンベースのトークンが日常生活に浸透してくる可能性は充分にあるのです。
Braveを筆頭に、トークンを組み込んだプロダクトは既に世界中で開発されています。一般消費者に普及する事例が出てくるのは、時間の問題かもしれません。